「技巧はうまい方がよろしい」と岸田劉生は書いている。絵を評価する際に、よく技巧ばかりがうますぎるとか、あまり上手すぎて面白みがないとか言って技巧の上手という事をいやしむ考えがあるが、これは間違いだと。技巧がうますぎる絵というのは、たいてい「技巧が目につく絵」であるというだけで、内容が薄いか不足であるために技巧だけが見え透いてしまうのだ。本当にいい絵というのは、技巧において非常に巧妙でありながら、しかし技巧のことなど全く目に入らない。技巧は絵の内容=美を表現するため、絵を生かすためにのみ働き、常に美の後ろに隠れてしまう。曰く「本当にいい絵は、その技巧だけを見ても幻妙なものでありながら、どこをどう描いたというような事は、特にそれを注意してみる以外には、目にうつらない、ただ「美」が、人を撃つ。美が技巧を支配し切っているのだ。」