作家の井上ひさし氏が亡くなった。『吉里吉里人』は強く印象に残っている。日本の東北のある小さな村が独立を宣言し、それを阻止しようとする日本政府との攻防を描いた小説だ。一見突飛なストーリーだが、それを可能とするための様々な策が具体的に示されていく。これならひょっとすると現実の日本で実際に遂行可能なのではないかと思えるようなリアリティがあり、小説というよりドキュメンタリィを見ている気分になる。▼登場する村人たちが身内同士であるいは外部の人と様々な議論や交渉をかわす際に東北弁を用いていたことが、妙に面白い。例えるなら新聞や教科書が方言で書かれているようなもので、その異化効果にグッとくる。この小説の面白さは、ストーリーもさることながら、村人たちの使う生きた言葉、日本語の奥深さであり、そこから示唆される国語論・方言論であったと思う。