#031 鏡の向こう

靴屋で鏡を見ていた時に、うっかり鏡を倒してしまったことがある。直そうと思って倒れた鏡を見下ろした時、そこに映った像を見てクラっときた。まるで床の一部に穴が開いたように見え、その中へと落ちてしまいそうな錯覚がしたからだ。それと同時に、鏡の中にまるで別の空間が広がっているかのような印象を強く受けた。床の下に大きな空間があって、鏡として出来た穴からその中を覗き込んでいるような気分になった。▼『鏡の国のアリス』では、アリスは暖炉の上の鏡を抜けて向こう側の世界へと出て行く。アリスの場合は鏡が霧のように溶け出したが、そんな事が起こらない私たちの世界では洗面台の鏡を見てもその向こうへ行けそうな気はしない。でも、足元に置かれた鏡には「向こうへ行けそうな感じ」を強く受けた。その上にジャンプすれば、そのまま中へ落ちて行けそうな気がしたのだ。