子供なら誰しもいたずらをよくするものだが、大人がやるそれは時になかなか厄介である。かつてニューヨークの近代美術館で初めてヴァン・ゴッホ展が開かれ た時のこと、牛肉を使って人間の耳のようなものを作り上げ、それを青いビロード張りの小箱に納めてゴッホ展の一室のテーブルの上に置き、「ヴィンセント・ ヴァン・ゴッホがみずから切り落として彼の情婦に贈った耳。1884年12月24日」と書かれた説明札を付けておく、といういたずらをした人がいたらし い。この「ゴッホの耳」はたちまち大人気となり、多くの観客が押し寄せいつまでも立ち去ろうとせず、周りに展示された絵画は見向きもされなかったそうだ。▼観客たちの俗物精神をいたずら主は暴きたかったそうだ。事の批評性を評価すべきかただの悪質ないたずらと見るべきか迷う所だが、なかなか痛快なエピソードではある。